経済産業省所管のNEDOが、産学連携で高度専門人材を育てる「契約学科」を東京大学・東北大学・新潟大学・金沢大学・神戸大学の5大学に設置する方針を固めました。2028年度の新設を予定し、企業が技術や実務ノウハウを提供する形で即戦力の若手研究者を育成します。東京大学はソニーグループと連携し、経済産業省は最大25億円の補助金を投じる計画です。制度の詳細は2026年3月の中央教育審議会大学院部会に資料が示されており、産学が協議して「育成する人材像」とカリキュラムを定めること、企業側が教育研究資源を提供することが要件とされています。
大学の学科そのものを企業と共同で設計するという、かなり踏み込んだ形態です。
ただし、いきなり学科を作る話ではありません。文科省の資料では、既存の「共同研究講座」からの発展形として位置づけられています。つまり、すでに大学に講座を持っている企業にとっては次の一手であり、これまで大学と関係のない企業が明日から検討できる制度ではありません。
そして企業に求められるのは研究費だけではありません。資料に列挙されているのは、学生の共同研究への参画、自社研究所での中長期インターン、社員を教員・研究員として送り出す人事交流、事業化時の販路提供や出資まで。金銭ではなく、人と事業機会の提供が中心です。 社員を数年間大学に出せるか、という問いに答えられる企業でないと要件を満たせません。
大学側にとっては、研究費に依存しない連携モデルになり得る点が重要です。卒業後の進路まで含めて企業と設計できれば、学生募集にも効きます。一方で、特定企業の都合がカリキュラムに入り込むことへの学内の慎重論は当然あり、育成する人材像をどこまで一般性のある形で書けるかが運用の分かれ目になりそうです。
契約学科の前例
日本の契約学科は、ゼロから考えられた制度ではありません。経済産業省の資料には「韓国や台湾における取組も参考に」と明記され、参考として両国の仕組みに1ページが割かれています。
- 韓国 — 2003年、産学連携法8条にもとづき、大学が企業や地方自治体と契約して学部・学科を設置できるようになりました。学生は企業から学費等の支援を受け、卒業後はその企業で勤務します。代表例が2006年に成均館大学校とサムスン電子が設けた半導体システム工学科で、日本経済新聞の報道によれば、設立から約15年の時点で卒業生の9割弱がサムスンの半導体部門に進んでいます
- 台湾 — 2021年に「国家重点領域産学官連携・人材育成イノベーション条例」が公布され、官民が資金を出し合って重点科学技術研究学院を設置。台湾大学の研究学院には2022年、TSMCなど4社と行政機関が計8億円を拠出し、学費・生活費の支援やインターンシップの提供にあてています
同じ資料には、韓国・漢陽大学の半導体工学科(契約企業:SKハイニックス)の中身も載っています。学費は全額、加えて毎月の学業補助金。修士・博士統合課程に進む場合の学費も全額。新入生にはノートPC。SKハイニックスでのインターンシップ、CESやシリコンバレーの見学、米国・中国にある同社研究所の訪問。企業の専門家による講義や研究室インターンシップ——ここまで揃えて、ようやく18歳が進路を決める、ということでもあります。
日本の制度がどこまでやるかは、まだ分かりません。ただ、企業に求められるのが研究費ではなく人と事業機会の提供だという前段の話は、こうした前例を踏まえたものだと考えると腑に落ちます。学生に何を差し出せるかが問われている、と読んだほうが実態に近いのかもしれません。
5大学という規模は試行であり、成果が出れば拡大する類の制度です。該当分野の企業は、動きを追っておく価値があります。
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